講義のねらい

福山市立大学学部集中講義「生活科指導法」では、受講生が協働的に単元計画を開発するワークショップを取り入れた。本来は対面による授業形態が適している。コロナ禍の影響でオンデマンド・オンライン授業を余儀なくされたことと、「GIGAスクール構想」との関連で、近い将来において教壇に立つ受講生に必要と考え、敢えてオンラインによる協働的な単元計画開発に挑戦させた。

本時の概要・ICT活用のポイント:(授業で活用した機器、活用の工夫点など)

本来は4日間15コマ(各90分)の集中講義である。生活科の特性から季節とのかかわりが重要な課題はオンデマンドにより事前に取り組ませた(4コマ分)。3日間(11コマ)の集中講義はZoomを用いて行ったことにより、現職教員2名(北海道及び愛知県から)をゲストスピーカーとして登用できた。講義及び受講生による発表、協議はZoomを活用し、チームに分かれての協議はブレイクアウトルームセッションを活用した。チームによる単元計画の開発にはコラボノートEXとZoomのブレイクアウトルームセッションと同時並行で活用した。

コラボノートEX活用のポイント

本集中講義の肝にあたる最終日の受講生による協働的な単元計画の開発には、コラボノートEXとZoomのブレイクアウトルームセッションを同時並行で活用した。コラボノートEXの中にテンプレートとして「単元略案作成シート」のフォーマットを張り付けた。9つのチームの成果物の発表もZoomとコラボノートEXを併用した。

受講生の反応と感想

感想の概要は以下の通りである。全体的には肯定的な回答が多く見られた。
【良かった点】

  • ふせんを使うことで視覚的でわかりやすく協働的に円滑に作業を進めることができた。
  • 新しいツール、小学生が使うツールに触れることができた
  • 対面で活動しているような感覚で取り組めた
  • オンラインだと難しいと思っていたが、コラボノートEXを使うことでいつもより話し合いが進めやすかった。
  • 指導案を一人で考えるのは大変だが、複数で考えることができ、様々な意見やアイディアを得ることができた。など、好意的な回答が数多く見られた。

【問題点と改善点】

  • 一番多かった回答は「時間が足りなかった」である。これは授業全体の構成上の問題であるが、見方を変えればコラボノートEXをもっと使ってみたかったことの裏返しと考えられる。
  • チームによる単元開発ワークショップの成果を踏まえて最終的にWordで提出するという課題でもあったので「使い慣れているWordでもよかった」という回答が複数見られた。確かに、本授業をより円滑に進めようとすればその方がよいのかもしれないが、授業者には「GIGAスクール構想との関連で、生活科にかかわる授業ではあるが、是非新しいツールに挑戦させたい」という意図があった。よかった点に「新しいソフトに触れてよかった」という回答が複数あったので、コラボノートEXに挑戦させる意図をもう少し丁寧に説明しておいてもよかった。

コラボノートEXの画面

➀最終課題で提出するのと同じフォーマットのテンプレートを貼った。

➁ふせんを6色用いて単元開発のポイントを明示し、具体的な記入例も提示した。

➂以下の2つのシートはチーム(9チーム)による単元開発(9単元)の途中の様子である。他のチームの作業の様子が閲覧できることがよい。他チームの作業の様子を参考にしたり、進行状況を確認できる。各チームの成果物の発表による共有化もZoomとコラボノートEXを併用した。1年の「がっこうを たんけんしよう」から2年の「こんなに 大きく なったよ」まで順番に発表させ、2年間の流れが分かるようにした。

実践記録の概要(単元略案)

以下の資料は、2022年2月12日(土)~2月14日(月)の3日間行った集中講義の1時間目のオリエンテーションで提示したものである。これに従って説明する。
小学校低学年の生活科の内容には季節にかかわるものが含まれている。特に、内容の②③は木々が色づく晩秋を逃すと実施ができない。また、内容④の「動くおもちゃづくり」は材料集めから製作まで時間を要するために連続3日間の集中講義では実施が難しい。そこで、内容①の「小学校低学年での生活科の学習体験の想起」を含めた4課題は、オンデマンドで実施することとした。その際、次ページにあるようなワークシートを課題ごとに準備した。なお、ワークシートに関してはZoomによるオンライン授業でも同様である。
オンラインによるメリットを生かし、オンライン集中講義の2日目と3日目に、ゲストスピーカーとして2名の現職教員を呼ぶことができた。北海道の佐藤恵教諭には、内容⑤「学習活動中の子どもへの支援」と内容⑥「ワークシートやカードへのコメントの書き方」を、愛知県の八釼明美教頭には、内容⑨「教科等の関連の意義と具体及び指導案作成」と内容⑩「幼小接続の課題や意義、具体及びスタートカリキュラム」に関して実践事例を交えて講話していただいた。
3日目は事前課題を含むそれまでの学習の集大成として、9つのチームに分かれて9つの単元の開発を実施した。各チームの成果物の発表による共有化もZoomとコラボノートEXを併用した。1年の「がっこうを たんけんしよう」から2年の「こんなに 大きく なったよ」まで順番に発表させ、2年間の流れが分かるようにした。個人の最終課題として、チームの成果物を元にWordで単元計画を完成させた。

GIGAスクール構想の進展により、教員養成に関しても動きがあった。文部科学省総合教育政策局教育人材政策課教員免許企画室の説明会(2021年9月10日)において「教育職員免許法施行規則及び教職課程認定基準等の改正について」が示された。
「道徳、総合的な学習の時間等の指導法及び生徒指導、教育相談等に関する科目」に「情報通信技術を活用した教育の理論及び方法」が必修科目(1単位以上)として加わった。筆者も2023年度より小学校免許及び中高免許対象の授業を8コマ(1コマ90分)ずつ担当する。主な5つの達成目標の一つに「チームによるオンライン協働学習支援ツールを活用した情報モラル教育の指導案作成を通して、情報通信機器の基本的な操作技能及び指導法を総合的に習得する。」を入れており、コラボノートEXの利用を考えている。
先の文部科学省の説明会資料には「今回改正されたICT事項科目1単位のみならず、教職課程全体を通じたICT活用指導力の育成への取組が重要」と明記されており、今回のような「教科等の指導法」に関する授業での活用が求められている。
本実践は、ICT(特に、協働学習支援ツール)を活用した大学授業の試行的な取組である。今回の成果と課題を精査し、今後の本格的な授業づくりに生かしていきたい。
また、新型コロナウイルス感染症の終息後も、各大学では対面授業とオンデマンド・オンラインの併用によるハイブリッド授業が進められる。一方で、全ての大学でアクティブ・ラーニングによる授業の改善・工夫も求められている。本実践が提案したZoomのブレイクアウトルームとコラボノートEXの同時活用による協働的なワークショップは、その意味においても先進的であり価値があると考える。

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